表面的な「残留農薬」分類だけを見ると969件ですが、食品衛生法上の規格基準違反として記録された農薬関連事例も含めると、実質的な農薬関連違反は約3,400件規模になります。
特に注意が必要なのは、中国産野菜、エクアドル・ガーナ等のカカオ豆、アフリカ・東南アジア産ゴマ、タイ産ハーブ、メキシコ産アボカドなどです。仕入れ前に、対象農薬、検査証明書、農薬使用記録、命令検査の有無を確認する必要があります。
残留農薬基準の最新確認先は消費者庁の「食品中の残留農薬等」ページおよび関係法令です。
令和6年4月1日から、食品衛生基準行政は厚生労働省から消費者庁へ移管されています。
このページで確認できること
- 残留農薬違反の実態:公称969件と、ポジティブリスト違反を含む約3,400件規模の違い
- 国別・食品別リスク:中国産野菜、カカオ豆、ゴマ、タイ産ハーブ、アボカドなど
- 注意すべき農薬:クロルピリホス、チアメトキサム、イミダクロプリド、2,4-D、メタミドホス
- ポジティブリスト制度:一律基準0.01ppmが輸入実務に与える影響
- 輸入前の確認方法:COA、自主検査、農薬使用記録、GAP認証、命令検査の確認
先に結論
残留農薬は「輸出国で基準内」でも、日本で違反になることがあります。
日本で個別基準が設定されていない農薬は、一律基準0.01ppmが適用されるため、
わずかな残留でも違反になる場合があります。
輸入前に最初に確認すべき残留農薬リスク
残留農薬リスクは、食品名だけでも、国名だけでも判断できません。
実務では「原産国 × 食品 × 使用されやすい農薬 × 日本の基準値」の組み合わせで確認します。
たとえば、同じ農産物でも、中国産たまねぎではチアメトキサム、カカオ豆では2,4-Dやクロルピリホス、アフリカ産ゴマではイミダクロプリドやチアメトキサム、タイ産ハーブではクロルピリホスが問題になりやすい、というように確認項目が変わります。
| 確認するもの | 確認する理由 | 輸入前の対応 |
|---|---|---|
| 原産国・産地 | 国や地域によって使用されやすい農薬が異なる | 国別の過去違反と命令検査対象を確認する |
| 食品分類 | 日本の基準値は食品ごとに設定される | 食品分類を誤らないよう、原料・加工度を確認する |
| 農薬使用記録 | どの農薬をいつ使ったかで残留リスクが変わる | 散布日、収穫日、PHI、使用量を確認する |
| COA・検査証明書 | 対象農薬と検出限界が十分でないことがある | 検査対象農薬数、LOQ、対象ロットを確認する |
| 命令検査の有無 | 対象になると輸入届出ごとに検査が必要になる | 輸入前に厚生労働省・検疫所情報を確認する |
「残留農薬検査済み」と書かれた証明書だけでは不十分です。
日本で問題になりやすい農薬が検査対象に入っているか、検出限界が日本の基準値以下か、対象ロットと一致しているかを確認する必要があります。
1. 残留農薬違反の全体像:969件の構造と「隠れた農薬違反」
(2002〜2025年)
(11/13条)違反
※「その他」に分類
実質的な規模
毎年100〜156件
で推移
残留農薬は違反件数ベースでは969件と、全体の4.1%にとどまります。しかしこの数字は実態を過小評価しています。「違反タイプ:その他」に分類された事例の中に、食品衛生法第11条・第13条に基づくポジティブリスト制度違反(農薬の残留基準値超過)が2,410件含まれているからです。
これらを合算すると、農薬に起因する違反は約3,400件規模となり、違反カテゴリーとして実質的な第1位に相当します。「残留農薬」の公称件数だけを見て「比較的少ない」と判断するのは危険です。
年別推移:2020年以降に再増加
「残留農薬」として分類された違反件数は2002年(133件)をピークに減少しましたが、近年は増加に転じています。ポジティブリスト関連違反も合算すると2020〜2025年は毎年100〜156件を記録しており、減少傾向にあった2013〜2017年(16〜52件/年)からは明らかに増加しています。
2. ポジティブリスト制度:「一律基準0.01ppm」が意味すること
2006年5月に施行された食品衛生法の改正によって、農薬・動物用医薬品・飼料添加物に関する「ポジティブリスト制度」が導入されました。これは輸入食品の農薬管理において最も重要な制度変更です。
令和6年4月1日から、食品衛生基準行政は厚生労働省から消費者庁へ移管されています。残留農薬基準、ポジティブリスト制度、食品分類、試験法の最新情報は、消費者庁の「食品中の残留農薬等」ページと、残留農薬等ポジティブリスト制度基準値一覧を確認してください。輸入時の命令検査・モニタリング検査については、厚生労働省・検疫所の輸入食品監視関連情報も確認が必要です。
制度導入前後の違い
| 項目 | 2006年以前(ネガティブリスト) | 2006年以降(ポジティブリスト) |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 「基準が設定された農薬のみ規制」。基準がなければ使用量に上限なし | 「基準が設定された農薬のみ許可」。基準のない農薬は一律0.01ppmが上限 |
| 対象農薬数 | 国内基準が設定された約200物質(食品別) | 799物質に個別基準を設定。それ以外すべてに一律0.01ppm |
| 規制されない農薬 | 基準未設定農薬は事実上使用制限なし | 基準未設定農薬は0.01ppm超で違反 |
| 対象食品 | 農産物中心 | 農産物・加工食品・輸入食品すべてに適用 |
0.01ppm(=0.01mg/kg)は非常に低い数値です。たとえばクロルピリホスは中国では野菜への使用が認められており、「基準内」と判断されて出荷された食品でも、日本の基準(食品ごとに個別設定、一部は0.01ppm)では違反になるケースがあります。輸出国で「合格」と判断された農薬残留量が、日本の基準では「違反」となる理由の多くがここにあります。特に「日本で個別基準が設定されていない農薬(一律基準0.01ppm適用)」は、わずかな残留でも違反となります。
ポジティブリスト制度と「その他」区分の関係
2006年以前は農薬残留違反は「残留農薬」として分類されていましたが、制度改正後は食品衛生法第11条・第13条違反として「成分規格不適合」または「その他」に分類されるケースが増えました。違反事例の記録には「13条3項に基づき人の健康を損なうおそれのない量として定める量を超えて残留(農薬名 数値 ppm)」という形式で農薬名と検出値が記載されており、農薬違反であることは明確ですが、データ上の違反タイプ分類が「残留農薬」でなくなるため、表面的な件数が少なく見えます。
本データではこの「11条3項・13条3項違反」が2,410件記録されており、食品グループ別ではその他加工食品(1,020件)・野菜(810件)・種実類・ナッツ(201件)・香辛料(164件)・水産物(74件)・果実(72件)・穀類・豆類(35件)・茶類(34件)の順となっています。
3. 国別ランキング:中国・ガーナ・タイ・台湾・アフリカ諸国
残留農薬(violation_type「残留農薬」)の国別件数は以下の通りです。
🇨🇳 中国
384件
🇬🇭 ガーナ
116件
🇹🇭 タイ
88件
🇹🇼 台湾
47件
🇮🇳 インド
39件
🇲🇲 ミャンマー
33件
🇹🇿 タンザニア
32件
🇲🇽 メキシコ
30件
🇻🇳 ベトナム
21件
🇧🇫 ブルキナファソ
19件
ポジティブリスト違反(2,410件)の国別上位は中国(751件)・エクアドル(301件)・ベトナム(154件)・タイ(131件)・ガーナ(120件)・ベネズエラ(120件)・インド(110件)・韓国(99件)となっており、カカオ豆産地(エクアドル・ベネズエラ)が加わります。
国ごとの問題の「質」の違い
| 輸出国 | 主な問題農薬 | 主な対象食品 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 中国 | クロルピリホス(195件)・チアメトキサム(88件)・メタミドホス(32件) | たまねぎ・ほうれんそう・しゅんぎく・にんじん・きくらげ・しょうが | 品目が幅広い。有機リン系・ネオニコチノイド系が主体 |
| ガーナ | クロルピリホス(58件)・イミダクロプリド(48件)・デルタメトリン(21件) | 生鮮カカオ豆(113件/116件) | ほぼカカオ豆1品目に集中 |
| タイ | クロルピリホス(82件) | オオバコエンドロ・メボウキ・レモングラス・カミメボウキ・アカシア・おくら | タイ産ハーブ・葉野菜が主体 |
| 台湾 | クロルピリホス・イミダクロプリド | にんじん・ほうれんそう・タロイモ・花にら | 葉物・根菜 |
| ミャンマー・タンザニア・ブルキナファソ | イミダクロプリド・チアメトキサム・クロルピリホス | ゴマの種子(3カ国で約60件)・緑豆 | アフリカ・東南アジアのゴマ産地 |
| メキシコ | メタミドホス(23件) | 生鮮アボカド(17件) | アボカドへのメタミドホスが特徴的 |
4. 主要農薬物質:クロルピリホス・チアメトキサム・イミダクロプリド
| 農薬の種類 | 有機リン系殺虫剤。土壌・葉面処理用として広く使用されてきた農薬。 |
|---|---|
| 主要検出国 | 中国(196件)・タイ(86件)・ガーナ(60件)・インド(36件)・台湾(24件)・コロンビア(13件)・韓国(12件) |
| 主要検出食品 | 生鮮カカオ豆(60件)・冷凍ほうれんそう(55件)・生鮮オオバコエンドロ(29件)・冷凍しゅんぎく(18件)・生鮮コーヒー豆(17件)・乾燥きくらげ(14件)・生鮮さといも(12件)・生鮮マンゴー(11件) |
| 年別傾向 | 2002年(132件)がピーク。その後は大幅減少したが、2023年に22件と再増加傾向あり。 |
| 実務上の注意 | クロルピリホスは日本でも農薬登録があり、個別に残留基準が設定されている食品も多い。しかし食品によって基準値が大きく異なり、「日本でも使われている農薬だから大丈夫」という判断は誤り。中国産・タイ産の葉物野菜・きのこ類は特に注意が必要。 |
| 農薬の種類 | ネオニコチノイド系殺虫剤。土壌・葉面処理・種子処理に使用。幅広い害虫に効果があり、農業現場で広く普及している。 |
|---|---|
| 主要検出国 | 中国(138件)・ミャンマー(16件)・モザンビーク(10件)・ガーナ(4件) |
| 主要検出食品 | 生鮮たまねぎ(88件)・緑豆(15件)・冷凍たまねぎ(11件)・生鮮ゴマ(11件)・生鮮だいこん(10件)・生鮮ねぎ(5件)・生鮮しょうが(5件) |
| 近年の動向 | 2020年以降の農薬違反(残留農薬区分)では最多物質(90件)。中国産たまねぎのチアメトキサムが近年の主要問題となっている。 |
| 実務上の注意 | EUではミツバチへの影響を理由にネオニコチノイド系農薬の屋外使用を制限しているが、中国では使用が継続している。「EU向けに製造した」という証明は日本向けの残留基準適合の保証にならない。中国産たまねぎ・葱類・根菜類は必須確認項目。 |
| 農薬の種類 | ネオニコチノイド系殺虫剤。チアメトキサムと同じ系統。土壌・葉面・種子処理に幅広く使用。 |
|---|---|
| 主要検出国・食品 | タンザニア産ゴマ(12件)・ガーナ産カカオ豆(48件)・ミャンマー産ゴマ・緑豆・中国産野菜など |
| 近年の動向 | 2020年以降の違反ではチアメトキサムに次ぐ第2位(20件)。アフリカ産ゴマを中心に検出が続いている。 |
| 実務上の注意 | アフリカ産(タンザニア・ブルキナファソ・ミャンマー)のゴマはイミダクロプリド・チアメトキサムの試験が重要。ゴマの種子は国際的な残留基準の整備が遅れており、日本の一律基準(0.01ppm)が適用される場合がある。 |
| 農薬の種類 | 有機リン系殺虫剤・殺ダニ剤。毒性が高く、多くの国で使用が制限・禁止されている。 |
|---|---|
| 主要検出国 | 中国(34件)・メキシコ(23件)・台湾(9件)・ペルー(8件)・バングラデシュ(4件) |
| 主要検出食品 | 生鮮アボカド(17件・主にメキシコ産)・生鮮にんじん(14件・主に中国産)・乾燥白きくらげ(11件)・キノア(6件・ペルー産) |
| 年別傾向 | 2006〜2011年に集中(ピークは2006年17件・2008年13件・2011年13件)。近年は減少しているが2022年に5件の再検出あり。 |
| 実務上の注意 | メキシコ産アボカドは有機リン系農薬(メタミドホス含む)の確認が必要。アボカドは輸出量が増加しており、日本向け試験の徹底がサプライヤーに求められる。 |
5. 2,4-D(除草剤)とカカオ豆:461件の実態と背景
農薬残留違反の中で特異なパターンを示すのが、カカオ豆への2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)検出です。
への検出が占める割合
ベネズエラ(109件)が続く
検出国の内訳
| 輸出国 | 件数 | 主な品目 |
|---|---|---|
| エクアドル | 281件 | 生鮮カカオ豆(289件中281件) |
| ベネズエラ | 109件 | 生鮮カカオ豆(131件中109件) |
| ガーナ | 21件 | 生鮮カカオ豆 |
| コートジボワール | 14件 | 生鮮カカオ豆 |
| その他(コロンビア・ケニア・タンザニア等) | 36件 | カカオ豆・コーヒー豆・ゴマ・小豆 |
なぜカカオ豆に2,4-Dが残留するのか
- 2,4-Dは広葉雑草に効果のある除草剤:カカオ栽培農園ではカカオの木の根元や園地の除草に2,4-Dが使用されることがあります。カカオの木自体は双子葉植物であるため、葉・果実(カカオポッド)・豆への移行・残留が生じる可能性があります。
- 産地の農薬管理体制:エクアドル・ベネズエラ・ガーナ等のカカオ産地では小規模農家が多く、農薬の使用方法・収穫前の使用制限期間(PHI:Pre-Harvest Interval)の管理が徹底されていないケースがあります。
- 日本の残留基準との乖離:2,4-Dはカカオ豆に対して日本の個別基準が設けられており(または一律基準0.01ppm)、産地国では規制が緩い場合に日本基準との差が生じます。
- 年別の傾向:2006〜2007年に集中検出(78件・57件)があり、その後は20〜40件台/年で継続しています。ゼロになっておらず、現在進行形の問題です。
6. 食品別リスク詳細:野菜・ナッツ・ゴマ・スパイスの実態
① 中国産野菜:たまねぎ・ほうれんそう・にんじん・きくらげ
中国産の残留農薬違反384件のうち336件が「食品グループ:その他(主に加工野菜・冷凍野菜)」に分類されており、野菜カテゴリーの41件と合わせると食品の実態は農産物・野菜が中心です。
| 商品 | 件数 | 主な農薬 | 傾向 |
|---|---|---|---|
| たまねぎ・冷凍たまねぎ(中国産) | 113件 | チアメトキサム(70件)・クロルピリホス(6件) | 近年の最重要品目。令和以降も継続検出 |
| 冷凍ほうれんそう・冷凍しゅんぎく(中国産) | 60件+18件 | クロルピリホス(60件のうち大半) | 葉物野菜への有機リン系農薬 |
| にんじん(中国産・台湾産) | 29件 | クロルピリホス・イミダクロプリド系 | 中国14件・台湾14件 |
| 乾燥きくらげ・裏白きくらげ(中国産) | 21件 | クロルピリホス(14件) | 乾燥きのこも対象。加工後も残留 |
② タイ産ハーブ・葉野菜:クロルピリホスの高頻度検出
タイの残留農薬88件のうち82件がクロルピリホスで、品目はオオバコエンドロ(コリアンダー系・29件)・メボウキ(バジル・7件)・レモングラス(6件)・カミメボウキ(5件)・アカシア(3件)・おくら(3件)などタイ産ハーブ・葉野菜に集中しています。
タイ産フレッシュハーブ・葉野菜は日本の飲食店・小売向けに需要がありますが、クロルピリホスの検出が継続しており、購入前の農薬試験が不可欠です。
③ アフリカ・東南アジア産ゴマ:イミダクロプリド・チアメトキサム
ゴマの農薬残留違反は103件に上り、産地はタンザニア(32件)・ブルキナファソ(19件)・ミャンマー(16件)・モザンビーク(10件)・パラグアイ(4件)・ウガンダ・ナイジェリア等と、アフリカ・東南アジアに分散しています。主な農薬はイミダクロプリド・チアメトキサム(ネオニコチノイド系)・クロルピリホス(有機リン系)です。
ゴマは健康志向ブームで需要が増加しており、小規模農家からの直接調達も増えています。産地の農薬管理体制は国・農家によって大きく異なり、有機認証・GAP認証の取得状況も重要な確認ポイントです。
④ ナッツ・種実類(125件)
種実類・ナッツの残留農薬125件のうち、商品はほぼゴマと生鮮ピスタチオナッツ(イラン産・11件)・生鮮カシューナッツ(8件)に集中しています。ピスタチオはイミダクロプリド系農薬が問題となっています。
⑤ メキシコ産アボカド:メタミドホス(17件)
メキシコ産アボカドでは有機リン系農薬メタミドホスが17件検出されています。アボカドは近年日本への輸入量が急増しており、農薬管理の確認が重要性を増しています。
7. 近年の傾向:2020年以降に増加するチアメトキサム
2020〜2025年の残留農薬違反(残留農薬区分)の特徴は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最多物質 | チアメトキサム(90件)。2020〜2025年の残留農薬違反全体の約56%を占める |
| 主要検出国 | 中国(80件)・インド(32件)・タンザニア(16件)・ミャンマー(16件)・モザンビーク(10件) |
| 主要品目 | 中国産たまねぎへのチアメトキサム・アフリカ産ゴマへのイミダクロプリド・チアメトキサム |
| 増加要因 | ネオニコチノイド系農薬の使用拡大(クロルピリホスの代替として)・ゴマ輸入量の増加・産地多様化によるアフリカ産の増加 |
仕入先に確認すべき資料と質問
残留農薬リスクを下げるには、仕入先に「残留農薬検査はありますか」と聞くだけでは足りません。
どの農薬を、どのロットで、どの検出限界で検査したのかまで確認する必要があります。
| 依頼する資料 | 確認したい内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 農薬使用記録 | 農薬名、使用日、使用量、対象圃場、収穫日、PHI | 農場単位・ロット単位で記録があるか確認する |
| COA・検査証明書 | 検査対象農薬、検出値、LOQ、検査日、対象ロット | 日本の基準値より高いLOQでは判断できない |
| GAP認証 | 農薬管理、散布記録、トレーサビリティの仕組み | 認証があっても日本基準適合の保証ではない |
| 過去の日本向け輸出実績 | 検疫所での指摘、命令検査、違反・積み戻しの有無 | 同じ商品でも産地・農場・収穫年が変わると再確認が必要 |
| 契約条件 | 違反発生時の費用負担、返品、再検査、代替品対応 | 廃棄・積み戻し費用を誰が負担するか明記する |
仕入先への確認文例
This product will be imported into Japan. Please provide pesticide application records and a residue pesticide test report for the exact shipment lot. The report should include tested pesticide names, analytical method, LOQ, test date, detected values, and confirmation that the results comply with Japanese MRLs and the uniform limit of 0.01 ppm where applicable.
自主検査・命令検査・COAの見方
残留農薬の確認では、検査証明書があるかどうかよりも、その検査が日本向け輸入判断に使える内容かどうかが重要です。
| 項目 | 見るポイント | 問題になりやすい例 |
|---|---|---|
| 検査対象農薬 | 過去違反の多い農薬が含まれているか | チアメトキサムや2,4-Dが検査対象外 |
| LOQ | 検出限界が日本の基準値以下か | LOQが0.05ppmで、一律基準0.01ppmを判断できない |
| 対象ロット | 輸入するロットと検査ロットが一致しているか | 過去ロットの証明書を流用している |
| 検査日 | 収穫・加工・出荷との時系列が自然か | 出荷予定ロットと関係ない古い検査結果 |
| 命令検査 | 対象国・対象食品・対象農薬に該当するか | 輸入届出時に全ロット検査が必要と判明する |
初回輸入、新規産地、新規サプライヤー、過去違反の多い国・食品の組み合わせでは、
サプライヤーのCOAだけでなく、日本基準を前提にした自主検査を検討してください。
8. 違反を防ぐ:GAP認証・農薬試験レポートの活用
残留農薬の違反を防ぐためには、輸入する側が能動的に管理する仕組みを持つことが不可欠です。「サプライヤーに任せる」だけでは対応できません。
GAP認証(適正農業規範)の活用
GAP(Good Agricultural Practice:適正農業規範)は農薬・肥料の使用記録・収穫前使用制限期間(PHI)の遵守・農薬の保管・廃棄等を含む農業管理の規範です。主要なGAP認証として以下があります。
| 認証名 | 対象・特徴 | 活用上の注意点 |
|---|---|---|
| GLOBALG.A.P. | 農産物・水産物全般。世界130カ国以上で認知されている国際的なGAP基準 | 認証があっても日本向け残留基準適合の保証ではない。認証の範囲・対象農薬を確認する |
| JGAP / ASIAGAP | 日本農業法人協会が運営する国内GAP。日本向け輸出農産物への適用も増えている | アジア産農産物での採用が増加中 |
| 有機認証(JAS有機等) | 化学農薬・化学肥料不使用。残留農薬リスクを大幅に低減 | 有機認証は農薬不使用の証明だが、隣接農場からのドリフト等で微量検出のケースもある |
農薬試験レポートの取得と活用
厚労省の「農薬等のポジティブリスト制度(農薬)」ページで、輸入品目(食品)に設定されている残留基準値一覧を確認する。
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu2/index.html
本記事の国別・品目別データを参照し、輸入先の国と品目に対応した問題農薬を特定。すべての農薬を一括スクリーニングするマルチ残留農薬試験(GC-MS/MS・LC-MS/MS法)を検査機関に依頼する。
・検査機関が公認の第三者機関であるか(日本国内の登録検査機関、またはISO/IEC 17025認定機関)
・対象ロットと試験日が一致しているか
・試験対象農薬の種類数(50農薬スクリーニングなのか200農薬なのか)が十分か
・「不検出(ND)」の検出限界値(LOQ)が日本の基準値以下であるか
厚労省「輸入食品に対する検査命令の実施」で、対象品目が農薬残留に関する命令検査対象となっていないかを輸入申請前に確認する。
農薬使用記録の提出・PHIの遵守・日本の残留基準への適合保証・違反発生時の費用負担等を契約書に明記する。特に新規サプライヤーとの取引開始時は契約前の試験実施を義務付ける。
9. 輸入実務者のためのチェックリスト
✅【中国産野菜・冷凍野菜】
- たまねぎ・冷凍たまねぎ:チアメトキサムの試験を最優先とする(113件・直近の最重要品目)
- 冷凍ほうれんそう・しゅんぎく・にら:クロルピリホスの試験を実施する
- にんじん・だいこん・さといも:クロルピリホス・チアメトキサムを含むマルチスクリーニング
- 乾燥きくらげ・乾燥野菜:クロルピリホスを含む試験。乾燥品は濃縮されるため換算が必要
✅【カカオ豆(エクアドル・ベネズエラ・ガーナ・コートジボワール産)】
- 2,4-Dの残留試験をロット毎に実施する(461件・継続検出中)
- ガーナ産はクロルピリホス(58件)・イミダクロプリド(48件)・デルタメトリン(21件)も確認する
- 輸出機関の証明書があっても日本基準での自主試験を実施する(検疫機関の証明は日本基準と異なる)
- 生産農家・農園レベルでのGAP認証・農薬使用記録の確認をサプライヤーに求める
✅【アフリカ・東南アジア産ゴマ(タンザニア・ブルキナファソ・ミャンマー・モザンビーク)】
- イミダクロプリド・チアメトキサム(ネオニコチノイド系)の試験を必須とする
- クロルピリホスも並行して確認する
- 産地・農家の農薬使用実態がサプライヤーにより大きく異なるため、農場レベルでの確認を推奨
- 有機認証・GAP認証の有無をサプライヤー選定基準に含める
✅【タイ産フレッシュハーブ・葉野菜】
- コリアンダー・バジル・レモングラス等はクロルピリホスの試験を実施する
- 生鮮ハーブは収穫〜輸送のリードタイムが短く、試験結果の取得タイミングに注意が必要
- 定期的な自主検査を輸入取引条件に含める
✅【メキシコ産アボカド】
- メタミドホス(有機リン系)を含む農薬スクリーニングを実施する
- 輸送中の防カビ処理についても成分確認を行う
- 残留農薬は「969件」より実質的に大きいリスク:ポジティブリスト違反を合算すると農薬関連は約3,400件規模です。表面的な分類件数だけで判断してはいけません。
- 一律基準0.01ppmは極めて低い水準:日本で個別基準が設定されていない農薬は、わずかな残留でも違反になります。産地で「使ってよい農薬」でも、日本基準では違反となるケースが多数あります。
- 農薬リスクは品目×産地の組み合わせで変わる:「中国産野菜=チアメトキサム・クロルピリホス」「アフリカ産ゴマ=イミダクロプリド・チアメトキサム」「カカオ豆=2,4-D・クロルピリホス」という品目×国の組み合わせで問題農薬が変わります。
- 近年はネオニコチノイドへのシフトが進行:2020年以降はチアメトキサムが最多検出農薬となっています。従来の有機リン系農薬(クロルピリホス)中心の試験パネルを見直す必要があります。
この食品の残留農薬リスクを確認したい方へ
残留農薬は、輸入してから違反が見つかると、検査費用、保管費用、廃棄・積み戻し、納期遅延につながります。
特に初回輸入、新規サプライヤー、中国産野菜、カカオ豆、ゴマ、タイ産ハーブ、アボカドなどは、仕入れ前に対象農薬と検査方法を整理しておく方が安全です。
- この国・食品で過去にどの農薬違反があるか
- COAの検査対象農薬とLOQは十分か
- 命令検査・モニタリング検査の対象になりそうか
- 仕入先に追加で確認すべき資料は何か
よくある質問
輸出国で残留農薬基準に合格していれば、日本でも輸入できますか?
必ずしも輸入できるとは限りません。
残留農薬基準は国ごとに異なり、日本で個別基準が設定されていない農薬には一律基準0.01ppmが適用される場合があります。
輸出国で合格していても、日本基準では違反になることがあります。
一律基準0.01ppmとは何ですか?
食品に残留する農薬等について個別の残留基準が設定されていない場合に適用される基準です。
0.01ppmは0.01mg/kgに相当し、非常に低い水準です。
わずかな残留でも違反になる可能性があります。
残留農薬検査済みのCOAがあれば十分ですか?
COAがあるだけでは十分ではありません。
検査対象農薬、検出限界、対象ロット、検査日、日本基準との照合が必要です。
過去違反の多い農薬が検査対象に含まれていない場合、リスクを判断できません。
有機認証やGAP認証があれば残留農薬リスクはありませんか?
リスクは下がりますが、ゼロにはなりません。
隣接農場からのドリフト、保管・輸送時の混入、認証範囲外の原料などが問題になる場合があります。
認証書だけでなく、対象ロットの検査結果や農薬使用記録も確認してください。
どの食品で残留農薬検査を優先すべきですか?
過去違反が多い組み合わせを優先します。
中国産野菜、カカオ豆、アフリカ・東南アジア産ゴマ、タイ産ハーブ、メキシコ産アボカドなどは、
輸入前に対象農薬を絞って確認する優先度が高い食品です。
- 厚生労働省「輸入食品の違反事例」(2002〜2025年)
- 消費者庁「食品中の残留農薬等」
- 厚生労働省「食品中の残留農薬等」(食品衛生基準行政移管に関する案内を含む)
- 残留農薬等ポジティブリスト制度基準値一覧(公益財団法人 日本食品化学研究振興財団)
- 厚生労働省・検疫所「輸入食品に対する検査命令の実施」
- 食品安全委員会「農薬に関する情報」
※本記事の件数・割合は、厚生労働省の輸入食品違反事例データをもとにした集計値です。
残留農薬基準、試験法、命令検査対象は変更されるため、輸入前には必ず最新の公式情報を確認してください。

