厚生労働省の輸入食品違反事例データ(2002〜2025年)に記録されたリステリア菌違反230件を詳細に分析しました。イタリア産サラミ・パルマハム・ゴルゴンゾーラ、スペイン産チョリソ・ハモンセラーノなど、欧州産の非加熱食肉製品・ナチュラルチーズに集中するリスクの実態と、日本の成分規格・命令検査の動向、輸入実務者として取るべき対策を具体的に解説します。
📋 目次
1. リステリア菌とは:死亡リスクのある食中毒菌の基礎知識
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、自然界(土壌・水・植物・動物の腸管)に広く存在するグラム陽性の細菌です。食中毒起因菌の中でも特に危険なものの一つとして位置付けられています。
リステリア症の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜伏期間 | 3〜70日(平均約3週間)。他の食中毒と比べて長く、原因食品の特定が難しい |
| 主な症状 | 健常者:発熱・筋肉痛・倦怠感など軽度症状で回復することが多い。ハイリスク者:菌血症・髄膜炎・脳炎・敗血症に進行することがある |
| 致死率 | リステリア症患者の20〜30%が死亡するとされ、食中毒起因菌の中では特に高い(食品安全委員会資料より) |
| ハイリスクグループ | 妊婦(胎児・新生児への感染リスク)・高齢者・免疫抑制状態の患者・乳幼児。健常成人では重症化しにくいが、これらのグループでは入院・死亡リスクが高まる |
| 増殖の特徴 | 4℃以下の冷蔵温度でも増殖できる(低温増殖性)。通常の冷蔵保管では菌数が抑えられないため、加熱が最も有効な対策 |
| 対象食品 | 非加熱で摂取する食品:生ハム・サラミ・スモークサーモン・ソフトチーズ・ブルーチーズ等が世界的に問題食品として知られている |
リステリア菌は加熱(75℃以上で数分)で死滅しますが、生ハム・サラミ・ナチュラルチーズは製造後に加熱せず消費される食品です。製造工程での汚染が消費時点まで残存するため、製造環境の衛生管理が決定的に重要になります。「冷蔵で輸送しているから安全」ではなく、むしろ冷蔵中でも増殖するという特性が問題の核心です。
2. 230件の全体像:イタリア152件・スペイン63件という集中構造
(2002〜2025年)
(全体の81.7%)
(全体の18.3%)
が占める割合
国別内訳
🇮🇹 イタリア
152件
🇪🇸 スペイン
63件
🇫🇷 フランス
9件
🇺🇸 アメリカ
3件
その他(カナダ・デンマーク・スイス)
3件
リステリア菌違反は欧州産食品に圧倒的に集中しており、イタリアとスペインの2カ国で93%を占めます。これは両国が世界有数の非加熱食肉製品(生ハム・サラミ・コッパ等)の産地であることと、これらの製品が日本へ大量に輸入されていることを反映しています。
3. 対象食品の詳細:サラミ・ハム・チーズ別の違反実態
食肉製品(188件):非加熱食肉製品の4カテゴリー
| 食肉製品カテゴリー | 件数 | 代表的な違反商品 | 主な産地 |
|---|---|---|---|
| サラミ | 67件 | サラミ・ミラノ(SALAME MILANO)、サラミ・ヴィスマリーノ(SALAME VISMARINO)、フィノッキオーナ(SALAME FINOCCHIONA)、スペイン産スリムサラミ(FUET) | 主にイタリア・スペイン |
| 生ハム・ハモン | 46件 | パルマハム(PROSCIUTTO DI PARMA)、生ハム各種、ハモン・セラーノ(JAMON SERRANO)、100%イベリコ産 | 主にイタリア・スペイン |
| コッパ・パンチェッタ・ラルド | 29件 | コッパ(COPPA)、パンチェッタ(PANCETTA TESA)、ラルド(LARDO STESO・LARDO CINTA SENESE)、ロミトイベリコ | 主にイタリア・スペイン |
| チョリソ系 | 13件 | チョリソ・イベリコ(CHORIZO IBERICO)各種、ミニ・イベリアンソーセージ | 主にスペイン |
| 主な品目 | サラミ・ミラノ(最も一般的なイタリアンサラミ)、フィノッキオーナ(フェンネル風味)、モーラ・ロマニョーラ、スペイン産フエト(FUET)・スリムサラミ |
|---|---|
| リスクの背景 | サラミは塩漬け・熟成工程を経るが、発酵・乾燥・熟成中の製造環境がリステリア汚染の機会となりうる。熟成室・スライス工程での二次汚染が主な原因とされる。 |
| 実務上の注意 | DOP(原産地名称保護)認証品(サラミ・ミラノ DOP等)であっても、微生物管理の基準は製造工場によって異なる。認証は品質保証ではなく産地・製法の認証であり、リステリア安全性の保証ではない。 |
| 主な品目 | パルマハム(PROSCIUTTO DI PARMA)、ハモン・セラーノ(骨抜き)、100%イベリコベジョータ産、各種生ハム |
|---|---|
| リスクの背景 | 長期熟成品(数カ月〜2年以上)であっても、スライス・パック工程での環境汚染によりリステリアが混入するリスクがある。スライス後のパック内での増殖が問題となるケースもある。 |
| 実務上の注意 | 「パルマハム(DOPマーク)」はイタリアで最も権威ある加工肉認証の一つだが、それでも過去に違反事例が記録されている。ブランド・産地認証の有無に関わらず、輸入ロット毎の試験または製造工場の衛生管理証明書の確認が必要。 |
乳製品(42件):ゴルゴンゾーラとブルーチーズに集中
| チーズカテゴリー | 件数 | 代表的な違反商品 |
|---|---|---|
| ゴルゴンゾーラ(イタリア産) | 20件 | GORGONZOLA DOP(DOLCE・PICCANTE)、GORGONZOLA CREMIFICATO、ERBORINATO各種 |
| タレッジョ(イタリア産) | 4件 | TALEGGIO DOP(有機認証品含む) |
| ブルーチーズ系 | 3件以上 | 各種セミハード/ブルーチーズ(イタリア・フランス産) |
| カマンベール(フランス産) | 2件 | CAMEMBERT DE NORMANDIE(AOC・生乳製) |
| ブリー(フランス産) | 1件 | BRIE PATURAGES |
| なぜゴルゴンゾーラが多いか | ゴルゴンゾーラはブルーチーズの一種で、熟成中に青カビ(ペニシリウム)を内部に繁殖させる製法を使用する。このため内部が多孔質になり、リステリアが定着しやすい環境が生じやすい面がある。また、ゴルゴンゾーラ(DOP)は日本への輸入量が多く、検査機会も多いことが件数に反映されている。 |
|---|---|
| ドルチェ vs ピカンテ | ゴルゴンゾーラには熟成期間が短くマイルドな「ドルチェ(dolce)」と、長期熟成の「ピカンテ(piccante)」があるが、データ上はどちらも違反事例が記録されている。 |
| 実務上の注意 | 令和以降(2019〜2025年)の22件のリステリア違反のうち、ゴルゴンゾーラ関連が多くを占める。近年も違反が継続しており、特段のリスク低減は確認できていない。 |
4. 日本の成分規格と欧州規制の違い
リステリア菌について日本と欧州(EU)の基準が異なることが、輸入違反件数の多さの根本的な原因の一つです。
| 項目 | 日本の基準 | EU(EC規則 2073/2005)の基準 |
|---|---|---|
| 非加熱食肉製品(生ハム・サラミ等) | リステリア・モノサイトゲネス:陰性(検出してはならない)または100 CFU/g以下(食品区分による) | 製品の賞味期限内に100 CFU/gを超えないことを確認できる場合:100 CFU/g以下(製品基準) 増殖を示せない場合:出荷時点で陰性 |
| ソフトチーズ・ブルーチーズ | リステリア・モノサイトゲネス:100 CFU/g以下 | 販売時点で100 CFU/g以下(ただし賞味期限内の増殖管理が必要) |
| 基準の考え方 | 「陰性」または「100 CFU/g以下」を輸入時点で確認。100 CFU/gを超えれば即違反 | 製品の賞味期限内全体での管理が中心。「増殖管理(growth control)」の概念を取り入れており、出荷時点の数値だけでなく流通全体での安全管理を求める |
EU規制ではリステリア・モノサイトゲネスについて「賞味期限内に100 CFU/gを超えない」という動的な管理が認められています。一方、日本の輸入食品検査は輸入された時点の状態を基準とします。EU基準で出荷された製品でも、輸送中に増殖が進めば日本の輸入検査で違反となる場合があります。また、「陰性」が求められる食品区分では、微量の検出でも違反になります。
日本の食品区分と適用される規格
| 食品区分 | リステリア規格 | 該当する輸入品の例 |
|---|---|---|
| 非加熱食肉製品(乾燥食肉製品以外) | リステリア・モノサイトゲネス:100 CFU/g以下 | 生ハム・サラミ・コッパ・パンチェッタ(スライスしたもの等) |
| ナチュラルチーズ(非加熱で食べるもの) | リステリア・モノサイトゲネス:100 CFU/g以下 | ゴルゴンゾーラ・タレッジョ・カマンベール・ブリー等 |
※食品の種類・製造方法等によって適用される規格が異なります。詳細は厚生労働省「食品、添加物等の規格基準」をご確認ください。
5. 検出値の実態:130〜310,000 /gという幅
違反事例データには菌数(CFU/g)の記載がある事例と「リステリア菌 検出」のみの記載がある事例があります。CFU数値が記載された事例(38件)の分析から以下のことが分かります。
(基準の約3,100倍)
(基準の10倍超)
(基準の100倍超)
検出値の中央値は約2,000 /g(基準値の約20倍)であり、基準値をわずかに超えた案件だけでなく、製造・流通上の重大な問題を示す高汚染事例も含まれています。特筆すべきは最大値310,000 /gで、これはイタリア産ゴルゴンゾーラ(2020年)での検出値です。また複数ロットから採取した検体で複数の汚染値が同一違反事例に記録されているものもあり(例:「1110 /g、23,250 /g、34,600 /g」)、同一メーカーの複数ロットで汚染が及んでいることを示しています。
なお、「リステリア菌 検出」のみの記載(192件)は、CFU数値が記録されていない事例(古いデータや記録様式の違い等による)で、陽性であることは確認されているものの数値が不明なケースです。
6. 年別推移:2008〜2014年のピーク期と令和以降
令和以降(2019〜2025年)の22件の特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検出国 | イタリア(14件)・スペイン(5件)・フランス(3件) |
| 食品 | ゴルゴンゾーラ(ドルチェ・ピカンテ)・タレッジョ(有機認証品含む)・ブルーチーズ各種・サラミ・コッパ・ハモンセラーノ・イベリコ肉製品 |
| 検査種別 | 17件が自主検査、0件が命令検査(令和以降は命令検査指定なし) |
| 検出値 | 最小130 /g〜最大310,000 /g(ゴルゴンゾーラ、2020年) |
| 措置 | 廃棄が主体 |
ピーク期(2008〜2014年)はイタリア・スペイン産の非加熱食肉製品が命令検査対象となっており、輸入ロットの大半が検査を受けた結果として多数の違反が発見されました。2015年以降は命令検査指定が解除され、令和以降の22件はすべて輸入者の自主検査によって発見されています。これは「命令検査がないから安全になった」のではなく、「発見の機会が減った」ことを意味します。現在、自主検査を実施しない輸入者は、リステリア汚染品を知らずに市場に流通させるリスクを抱えています。
7. 命令検査との関係:ピーク期に88件が命令検査で検出
2008〜2014年のピーク期(179件)を命令検査・自主検査別に見ると、88件が命令検査・72件が自主検査による検出でした。当時は厚労省がイタリア・スペイン産の非加熱食肉製品に対して命令検査を実施しており、この指定が多数の違反の発見につながりました。
2015年以降、命令検査指定は解除されました。現在(2025年3月時点)では、リステリア菌に関する輸入食品への命令検査指定は定期的に更新・変更されます。輸入前に最新の命令検査指定状況を厚労省ウェブサイトで必ず確認してください。
命令検査対象外となっている現在でも、2019年以降7件の違反(自主検査)が発見されており、リスクはゼロではありません。
8. 輸入者として取るべき対策
① 輸入前の試験証明書(COA)取得
製造ロット毎のリステリア・モノサイトゲネスの試験証明書を入手する。検査機関は公認の第三者機関(ISO/IEC 17025認定等)であることを確認する。
・対象ロット番号と試験対象が一致しているか
・試験日が製造・輸出日と整合しているか
・「100 CFU/g以下」または「陰性」の記載があるか(検出限界値の記載も確認)
・複数ロット混合の場合は全ロット分の試験か確認する
サプライヤーのCOAに加えて、重要な取引や新規サプライヤーとの取引開始時は日本国内の公認検査機関での自主検査を実施する。令和以降の22件の違反がすべて自主検査で発見されていることは、自主検査の実施が唯一の防衛手段であることを示している。
② 温度管理の徹底
- リステリアは4℃以下の冷蔵温度でも増殖する:通常の冷蔵(0〜4℃)では増殖速度は遅くなりますが、停止はしません。長期間の冷蔵保管中に菌数が増加するため、輸入後の保管期間・温度管理は特に重要です。
- コールドチェーンの記録確認:輸送中(航空・海上)の温度管理記録を入手する。とくに長距離・長時間の輸送では温度逸脱(温度が上がりすぎる・変動が大きい)がリスクを高めます。
- 到着後の取り扱い:輸入通関後も規定の保管温度を維持する。販売先(小売・飲食)へも保管温度の遵守を周知する。
③ サプライヤー選定における衛生管理体制の確認
- HACCP認証・ISO 22000・BRC食品安全認証等の取得状況を確認する:特に重要なのはリステリア管理に関する環境モニタリングプログラムの有無。製造環境(壁・床・スライサー等)のリステリア定期検査を実施しているかを確認する。
- スライス・パック工程の衛生管理:生ハム・サラミ・チーズはスライス後のパック工程で二次汚染が発生するリスクが高い。スライス・パック設備の洗浄・消毒プログラム(特に週次・日次の清掃頻度)をサプライヤーに確認する。
- DOP・PDO認証品でも工場監査は必要:前述の通り、パルマハム(PROSCIUTTO DI PARMA DOP)・ゴルゴンゾーラ(DOP)でも違反事例が記録されています。認証と衛生管理の問題は別次元です。
④ 命令検査情報の定期確認
厚労省「輸入食品に対する検査命令の実施」のページを定期的に確認し、取り扱い品目が命令検査対象となった場合に備える。命令検査対象となった場合、全輸入ロットについて輸入前の検査と結果提出が義務付けられます。
9. 実務チェックリスト
✅【イタリア産・スペイン産 非加熱食肉製品(サラミ・生ハム・コッパ等)】
- 製造ロット毎のリステリア・モノサイトゲネス試験証明書(公認第三者機関発行)を輸入前に取得する
- 試験結果が「100 CFU/g以下」であることを確認する(陰性記載も可)
- 新規サプライヤーからの初回輸入時は日本側での自主検査を実施する
- 製造工場のHACCP・リステリア環境モニタリングプログラムの実施状況を確認する
- DOP認証品であっても、上記の試験・確認は省略しない
- 輸送温度管理記録(コールドチェーン記録)を入手し確認する
- 輸入後の保管・流通においても規定温度(通常2〜4℃)を維持・記録する
✅【ゴルゴンゾーラ・タレッジョ・カマンベール等のナチュラルチーズ】
- 製造ロット毎のリステリア・モノサイトゲネス試験証明書を入手する(100 CFU/g以下の確認)
- ゴルゴンゾーラは令和以降も継続的に違反が発生しており、特に重点的な管理が必要
- タレッジョ(有機認証品含む)もリステリア違反事例あり。有機認証は微生物安全性の保証ではない
- フランス産の生乳製カマンベール・ブリーもリステリア違反例があり、同様の確認が必要
- 賞味期限・保管温度・開封後の使用推奨方法を販売先(小売・飲食店)にも伝達する
✅【継続取引先の管理】
- 過去に問題のなかったサプライヤーでも、製造工場の設備変更・ライン変更・担当者変更後は再確認を行う
- 同一製造工場の異なるロットで複数汚染が発生した事例もあるため、1回の試験合格で継続的に安全とは判断しない
- 厚労省の命令検査対象リストを四半期毎など定期的に確認し、対象品目への指定に備える
- リステリアは「欧州ブランド品」でも発生する:PROSCIUTTO DI PARMA(パルマハム DOP)・GORGONZOLA DOP・TALEGGIO DOPなど、名だたるイタリア産食品で違反事例が記録されています。ブランドへの信頼と微生物管理は別問題です。
- 令和以降は「自主検査をした人だけが発見できる」状況:命令検査が解除された現在、自主検査を実施しない輸入者はリステリア汚染を発見する手段がありません。年1〜7件の継続的な違反発見は、自主検査実施者によるものです。
- 冷蔵で増殖する:「冷蔵保管・冷蔵輸送をしているから安全」は成立しません。リステリアは4℃以下でも増殖します。製造時点での低汚染状態の維持が最重要です。
- ハイリスクグループへの販売は特に注意:妊婦・高齢者・乳幼児が多い販売先(産院、高齢者施設、乳幼児向け食品店等)への非加熱食肉製品・ナチュラルチーズの提供は、リステリアリスクの観点から管理を強化すべきです。
この記事を読んで、自分の案件が気になった方へ
同じ違反が自分の輸入案件で起きるか、
事前に確認できます。
品目・原産国・仕入先の条件をもとに、止まりやすいポイントを整理します。
資料は揃っていなくても構いません。
・厚生労働省「輸入食品の違反事例」(平成14年〜令和7年)
・厚労省「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)
・厚労省「輸入食品に対する検査命令の実施」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/index.html
・食品安全委員会「リステリア・モノサイトゲネス」評価書
・欧州委員会規則 EC No 2073/2005(食品の微生物学的基準)
※本記事の件数・割合はすべて上記データの集計値です。成分規格・命令検査の指定状況は随時更新されるため、最新情報は厚労省公式サイトをご確認ください。

